§1
数字で見る市場
出典は一次情報のみ
市場は明確に縮小している。だからこそ「限られた人手で回す」動機が強く、DXの必然性がある。
76,484か寺
仏教系寺院数(うち宗教法人 75,217)
文化庁『宗教年鑑』令和6年版
約2万か寺
無住寺院。全体の2割超
文化庁『宗務時報』No.124
6割超
年収300万円未満の宗教法人
文化庁調査報告書(2024年1月公表)
176,105件
墓じまい(改葬)。9年で約1.9倍、過去最多
厚労省 衛生行政報告例(2024年度)
35.6%
2040年に消滅可能性都市に所在する宗教法人(約6.3万法人)
石井研士(國學院大)試算
約5,100億円
寺院市場規模(2019年は約5,700億円)
良いお寺研究会推計(2025年)
54.3%
寺から何の情報提供も受けていない檀家。SNS 0.8%・メール 0.4%
全日本仏教会・大和証券 2022(n=6,184)
66%
お布施を「高い」と感じる人。相場が分からない 41.6%
葬儀の口コミ調査
§2
競合マップ — 機能ごとに分断された市場
6レーン/普及率1%未満
ベンダーは機能単位で存在し、レーンをまたぐ製品がない。
公表導入数はお寺まもる君30か寺超、しゅうごうのLINE 70か寺など、7.7万か寺に対して1%未満のオーダーにとどまる。
檀家管理 SaaS
直接競合
- お寺まもる君初期29,800円+月9,800円/導入30寺超・継続率97%
- クラウド管理 寺務台帳月10,000〜15,000円/「檀信徒カルテ」で特許取得
- てらの記月4,980円/AI-OCRで手書き過去帳を読取・2026年6月開始
- お寺プラス無料〜月1,628円/スマホアプリ型・檀家10件まで無料
- 檀家360 / kapila価格非公開/後者は寺⇔檀家チャット特化
買い切りデスクトップ
レガシー勢
- 沙羅/シンサラ/沙羅Web43,780〜198,000円/累計出荷3,000本超
- 天空21 / 天空Web39,600〜191,400円/墓地図・会計・提出書類まで
- 一如買切/門徒管理+墓地図作成サービス
- 蘇婆訶過去帳修復事業と一体・短冊印刷が豊富
会計・税務
宗教法人特有
- 寺会計STAT年額2万円前後/宗教法人科目を標準搭載・2025年開始
- 宗教法人らくらく会計 / MS寺院専用パッケージ
- freee等の汎用会計宗教法人の決算書フォーマット非対応
霊園・墓地管理
データが寺の外にある
- 一番墓地五大
- hakamory区画数課金
- ぼさん三菱電機DI
- CeSM クラウド版—
連絡・予約・決済
点在するツール
- しゅうごうのLINE導入70か寺・開封率70%超
- RESERVA寺社向けLP・除夜の鐘の入場管理
- PayPay賽銭2026年2月時点で50寺社/送金扱いで非課税
- 寺Pay護持会費の自動納付・手数料3.5〜10%/単発納付は未対応
集客ポータル
参拝者側の接点
- ホトカミ16万寺社掲載・月間約100万人/寺側は基本無料
- まいてら審査制ポータル
- テラハク / OTERA STAY宿坊。申請サポート5〜10万円+月3万円など
空白地帯
檀家管理 × 会計 × 墓地 × 集客 を一気通貫で扱う製品は、確認できなかった。
そして真の競合はソフトではなく紙・Excel・電話。導入障壁は高齢住職のITリテラシー、手書き過去帳のデータ化コスト(檀家100家=10万円〜・2〜6ヶ月)、クラウドへのセキュリティ不安の3点に集約される。
§3
課題の所在
供給側と需要側
お寺側(供給側)
- アナログ運用の限界 — 名簿は紙かExcel、過去帳は手書きが大半。年回忌の手計算、PC故障・USB紛失によるデータ喪失、住職交代時の引き継ぎ困難。
- 導入障壁 — 「Excelの関数が分からず利用中止」。旧字・外字・戒名の特殊文字対応は必須要件。
- 過去の失敗体験 — 買い切りソフトを買ったが入力が大変で放置、宗派配布ソフトがサポート切れ。不信の蓄積がある。
- 収益の構造的減少 — 檀家減少・墓じまい急増・家族葬化による布施単価の下落。仲介ポータル経由は布施の40〜58%が手数料。
- 修繕費 — 本堂修復は最低5,000万円規模。積立・勧募の管理ニーズ。
- 会計・税務の特殊性 — 法人会計と住職家計の分離が税務調査の最重点。課税区分は三層(お守りは不課税・数珠は課税、永代使用料は非課税・墓地管理料は課税)。提出遅延は過料10万円以下。
- 機能の分断 — 檀家管理・会計・墓地・集客が別システム。未収金管理とキャッシュレス収納の連携も弱い。
檀家・生活者側(需要側)
- お金の不透明さ — お布施が高い66%、相場不明41.6%、納得している人は49.8%のみ。金額明示を求める声53.5%、檀家満足層では72.9%。
- 離檀料トラブル — 基準がなく300万円・700万円の高額請求事例が国民生活センターに寄せられている。
- 接点の薄さ — 54.3%が寺から情報提供なし。会話機会は葬儀・法要のみ。情報提供量と満足度は明確に相関。
- 墓じまいは構造要因 — 動機は「遠方」約5割・「承継者不在」3〜4割で、寺への不満は7.7%のみ。遠隔でも関係を維持できる仕組みが離檀抑止になる。
- 若年層の断絶 — 20〜40代で菩提寺と自ら関わる人は1〜2割弱。10〜20代女性の73%は寺を訪れる目的がない。
- 経営情報の非開示 — 47.9%が寺の経営情報を一度ももらったことがない。護持会費・寄付の使途が見えない。
§4
事業機会の仮説
6件
01
一気通貫の不在
檀家管理 × 会計 × 墓地 × 連絡 × 集客を統合した製品がない。
02
「管理 → 集客」の橋渡し
既存製品は名簿管理止まりで集客につながらない。依頼者のSNS運用コンサルと組み合わせられるのは既存プレイヤーにない強み。
03
単発納付のキャッシュレス
寺Payは定期納付専用。塔婆・法要・単発布施のオンライン決済+檀家/一般の区別管理は未整備。
04
修繕の勧募管理
米国 Pushpay の capital campaign 相当(目標額・進捗・誓約寄付・分割)の国産品がない。「定期修繕が必要」という依頼者の話と直結する。
05
透明性を売りにする設計
金額の事前明示・使途レポートは檀家満足層ほど支持しており、差別化と社会的意義が一致する。
06
販売チャネルとしてのコンサル
宗派本山経由の一括販売は存在しない。実質チャネルはコンサル併売・エンディング産業展・月刊住職・SEO。依頼者がコンサルであること自体がチャネルになる。
§5
ヒアリング前に決める論点
5件
01
単寺カスタム か 横展開SaaS か
収益性も設計も根本から変わる。ヒアリング A-3 の回答が最重要。
02
入口機能の選定
米国の教訓は「決済(献金)が導入の入口」。日本では年忌法要の自動計算+案内状が最も普遍的なペインで、次いで護持会費の未納管理。集客は檀家基盤が整った後の第2フェーズが自然。
03
データ分離設計
檀家データ(宗教活動=個人情報保護法の義務規定は適用除外)と集客アプリのユーザーデータ(収益事業=適用あり)は法的に扱いが異なる。最初からテナント/目的分離を設計に織り込む。
04
価格帯
既存相場は月4,980〜15,000円。年収300万円未満が6割の市場で高単価は難しく、コンサル込みのバンドルや決済手数料型(Tithe.ly方式)も検討余地。
05
本当に作るべきかの検証
対象寺院が檀家100件以下なら「高機能な管理システム」は過剰の可能性もある。業務量を定量化してから機能を絞る。
§6
ヒアリングシート — 全42問
A〜H の8群
次のアクションはこれを埋めること。とくに A-3 の回答が、事業の形そのものを決める。
- コンサル先は何か寺? 宗派・地域・規模(檀家数)の分布は?
- 提供中のサービス内容と料金体系は?(SNS運用・集客・経営相談など)
- (a) 特定の1〜数か寺の課題解決 か (b) コンサル先に横展開する自社サービス化 か
- 誰が費用を負担する想定?(寺院が直接契約/コンサル料に含める/レベニューシェア)
- 依頼者から見て、お寺の一番の困りごとは?
- 既存ソフト(お寺まもる君・寺務台帳等)を紹介・検討したことは? 導入しなかった理由は?
- 宗派・本山との関係(過去帳のデジタル化・クラウド化に宗派規範の制約は?)
- 檀家数と直近5〜10年の増減。墓じまい・離檀の発生頻度
- 住職の年齢・ITリテラシー。寺族・職員は何人が事務に関わるか
- 兼務寺院はあるか。後継者は決まっているか
- 檀家名簿は何で管理?(紙/Excel/筆まめ/既存ソフト)→ 実物を見せてもらう
- 過去帳の状態(手書き冊数・旧字外字の頻度)。デジタル化への抵抗感
- 年忌法要の把握方法(誰がいつ何回忌かをどう調べ、どう案内している?)
- 連絡手段の内訳(電話/郵送/FAX/LINE/メール)。案内状は年何回・何通・作成時間は?
- 法要・行事のスケジュール管理と予約受付(ダブルブッキングは起きる?)
- 墓地・納骨堂の有無。区画台帳・図面・埋葬許可証の管理方法
- 一番時間を取られている事務作業は?(週何時間か)
- 檀家収入 — 護持会費の年額・集金方法・未納の把握と督促。入檀/離檀時の運用
- お布施 — 金額の目安を提示しているか。現金以外を受け取ったことは? 記録方法は?
- 賽銭 — 月あたりの規模感。集計・両替の手間(硬貨手数料)。キャッシュレスへの関心と抵抗
- 授与品 — 品目数・仕入先・在庫・売上記録。EC/郵送授与への考え(「授与と販売」の線引き)
- その他収入 — 駐車場・墓地管理料・永代供養・拝観料・貸し施設(課税区分が変わる)
- 会計 — 誰が記帳? 使用ソフトは? 税理士は? 収益事業の区分経理はしているか
- 修繕 — 直近実績と費用・資金源。積立の有無。今後10年の予定と概算。勧募のやり方・クラファンへの関心
- 檀家の年齢分布。次世代(子・孫世代)との接点
- 遠方檀家の割合。墓参できない檀家への対応(代行・オンラインの需要)
- 寺報・行事案内など定期的な情報発信の有無と頻度
- 檀家以外の参拝者はどれくらい? 何を目的に来ている?
- 年間行事(彼岸会・施餓鬼・坐禅会・マルシェ等)のラインナップと集客方法・参加者数
- SNS・HPの現状(誰が運用? コンサル範囲?)。LINE公式アカウントの有無
- これまでの導入/検討経験は? やめた理由は?
- クラウドに檀家情報を置くことへの抵抗感(セキュリティ・宗派規範)
- 意思決定プロセス(住職単独? 責任役員会・総代会の承認が必要?)
- 月額いくらまでなら現実的か。初期のデータ入力は誰がやる想定か(入力代行の予算)
- 所轄庁への提出書類(役員名簿・財産目録・収支計算書)は誰がどう作成?
- 年間収入は8,000万円を超えるか(収支計算書の作成義務の分岐)
- 収益事業の届出・申告はあるか(駐車場等)。インボイス登録の有無
- 住職・職員の給与計算と源泉徴収は誰が?
- 「新しい感じが良い」の具体像(参考にしたい寺・サービス・デザイン)
- 参拝者向けアプリで実現したい体験(御朱印・イベント・お守りEC・寄付など)
- 成功の定義 — 1年後にどうなっていたら成功か(時間削減/接点増/新規参拝者数/収益増)
- 予算とスケジュール感。まず小さく始めるならどの機能から?
§7
現在地
完了 — 2026-08-31
市場調査
10視点の並列Web調査+追加調査4本。本レポートの内容。
次はここ
ヒアリング
依頼者・対象寺院への42問。A-3の回答で設計の前提が決まる。
未着手
要件定義・設計
入口機能の絞り込みとデータ分離設計。
§8
主要出典
一次情報中心
- 文化庁『宗教年鑑』令和6年版/『宗務時報』No.124/「宗教法人が行う事業に関する調査報告書」(2024)
- 国税庁「宗教法人の税務」令和8年版
- 厚生労働省 衛生行政報告例(改葬件数)
- 全日本仏教会・大和証券「仏教に関する実態把握調査」2022・2024年度(n=6,184)
- 鎌倉新書「お墓の消費者全国実態調査」第17回/「改葬・墓じまいに関する実態調査」第4回
- 国民生活センター 離檀料トラブル注意喚起
- 各サービス公式サイト・プレスリリース(URLは docs/research/ の調査ログに記載)