市場調査レポート 2026-08-31 temple-management 社外秘

7.7万か寺の空白地帯

お寺管理システム — 市場調査サマリ

檀家管理・会計・墓地・連絡・集客は、それぞれ小さなベンダーが押さえている。 だがその全部を一本で扱う製品は、調査の範囲では見つからなかった。 そして最大の競合は、いまも紙とExcelと電話である。

調査方法
10視点の並列Web調査+追加調査4本
調査対象
国内寺院向けシステム/隣接業界/米国ChMS
依頼者
寺院向けSNS運用コンサルタント
現ステータス
ヒアリング前(実装未着手)
§1

数字で見る市場

出典は一次情報のみ

市場は明確に縮小している。だからこそ「限られた人手で回す」動機が強く、DXの必然性がある。

76,484か寺
仏教系寺院数(うち宗教法人 75,217)
文化庁『宗教年鑑』令和6年版
約2万か寺
無住寺院。全体の2割超
文化庁『宗務時報』No.124
6割超
年収300万円未満の宗教法人
文化庁調査報告書(2024年1月公表)
176,105
墓じまい(改葬)。9年で約1.9倍、過去最多
厚労省 衛生行政報告例(2024年度)
35.6%
2040年に消滅可能性都市に所在する宗教法人(約6.3万法人)
石井研士(國學院大)試算
約5,100億円
寺院市場規模(2019年は約5,700億円)
良いお寺研究会推計(2025年)
54.3%
寺から何の情報提供も受けていない檀家。SNS 0.8%・メール 0.4%
全日本仏教会・大和証券 2022(n=6,184)
66%
お布施を「高い」と感じる人。相場が分からない 41.6%
葬儀の口コミ調査
§2

競合マップ — 機能ごとに分断された市場

6レーン/普及率1%未満

ベンダーは機能単位で存在し、レーンをまたぐ製品がない。 公表導入数はお寺まもる君30か寺超、しゅうごうのLINE 70か寺など、7.7万か寺に対して1%未満のオーダーにとどまる。

檀家管理 SaaS

直接競合
  • お寺まもる君初期29,800円+月9,800円/導入30寺超・継続率97%
  • クラウド管理 寺務台帳月10,000〜15,000円/「檀信徒カルテ」で特許取得
  • てらの記月4,980円/AI-OCRで手書き過去帳を読取・2026年6月開始
  • お寺プラス無料〜月1,628円/スマホアプリ型・檀家10件まで無料
  • 檀家360 / kapila価格非公開/後者は寺⇔檀家チャット特化

買い切りデスクトップ

レガシー勢
  • 沙羅/シンサラ/沙羅Web43,780〜198,000円/累計出荷3,000本超
  • 天空21 / 天空Web39,600〜191,400円/墓地図・会計・提出書類まで
  • 一如買切/門徒管理+墓地図作成サービス
  • 蘇婆訶過去帳修復事業と一体・短冊印刷が豊富

会計・税務

宗教法人特有
  • 寺会計STAT年額2万円前後/宗教法人科目を標準搭載・2025年開始
  • 宗教法人らくらく会計 / MS寺院専用パッケージ
  • freee等の汎用会計宗教法人の決算書フォーマット非対応

霊園・墓地管理

データが寺の外にある
  • 一番墓地五大
  • hakamory区画数課金
  • ぼさん三菱電機DI
  • CeSM クラウド版

連絡・予約・決済

点在するツール
  • しゅうごうのLINE導入70か寺・開封率70%超
  • RESERVA寺社向けLP・除夜の鐘の入場管理
  • PayPay賽銭2026年2月時点で50寺社/送金扱いで非課税
  • 寺Pay護持会費の自動納付・手数料3.5〜10%/単発納付は未対応

集客ポータル

参拝者側の接点
  • ホトカミ16万寺社掲載・月間約100万人/寺側は基本無料
  • まいてら審査制ポータル
  • テラハク / OTERA STAY宿坊。申請サポート5〜10万円+月3万円など
空白地帯

檀家管理 × 会計 × 墓地 × 集客 を一気通貫で扱う製品は、確認できなかった。

そして真の競合はソフトではなく紙・Excel・電話。導入障壁は高齢住職のITリテラシー、手書き過去帳のデータ化コスト(檀家100家=10万円〜・2〜6ヶ月)、クラウドへのセキュリティ不安の3点に集約される。

§3

課題の所在

供給側と需要側

お寺側(供給側)

  1. アナログ運用の限界 — 名簿は紙かExcel、過去帳は手書きが大半。年回忌の手計算、PC故障・USB紛失によるデータ喪失、住職交代時の引き継ぎ困難。
  2. 導入障壁 — 「Excelの関数が分からず利用中止」。旧字・外字・戒名の特殊文字対応は必須要件。
  3. 過去の失敗体験 — 買い切りソフトを買ったが入力が大変で放置、宗派配布ソフトがサポート切れ。不信の蓄積がある。
  4. 収益の構造的減少 — 檀家減少・墓じまい急増・家族葬化による布施単価の下落。仲介ポータル経由は布施の40〜58%が手数料。
  5. 修繕費 — 本堂修復は最低5,000万円規模。積立・勧募の管理ニーズ。
  6. 会計・税務の特殊性 — 法人会計と住職家計の分離が税務調査の最重点。課税区分は三層(お守りは不課税・数珠は課税、永代使用料は非課税・墓地管理料は課税)。提出遅延は過料10万円以下。
  7. 機能の分断 — 檀家管理・会計・墓地・集客が別システム。未収金管理とキャッシュレス収納の連携も弱い。

檀家・生活者側(需要側)

  1. お金の不透明さ — お布施が高い66%、相場不明41.6%、納得している人は49.8%のみ。金額明示を求める声53.5%、檀家満足層では72.9%
  2. 離檀料トラブル — 基準がなく300万円・700万円の高額請求事例が国民生活センターに寄せられている。
  3. 接点の薄さ54.3%が寺から情報提供なし。会話機会は葬儀・法要のみ。情報提供量と満足度は明確に相関。
  4. 墓じまいは構造要因 — 動機は「遠方」約5割・「承継者不在」3〜4割で、寺への不満は7.7%のみ。遠隔でも関係を維持できる仕組みが離檀抑止になる。
  5. 若年層の断絶 — 20〜40代で菩提寺と自ら関わる人は1〜2割弱。10〜20代女性の73%は寺を訪れる目的がない。
  6. 経営情報の非開示47.9%が寺の経営情報を一度ももらったことがない。護持会費・寄付の使途が見えない。
§4

事業機会の仮説

6件
01

一気通貫の不在

檀家管理 × 会計 × 墓地 × 連絡 × 集客を統合した製品がない。

02

「管理 → 集客」の橋渡し

既存製品は名簿管理止まりで集客につながらない。依頼者のSNS運用コンサルと組み合わせられるのは既存プレイヤーにない強み。

03

単発納付のキャッシュレス

寺Payは定期納付専用。塔婆・法要・単発布施のオンライン決済+檀家/一般の区別管理は未整備。

04

修繕の勧募管理

米国 Pushpay の capital campaign 相当(目標額・進捗・誓約寄付・分割)の国産品がない。「定期修繕が必要」という依頼者の話と直結する。

05

透明性を売りにする設計

金額の事前明示・使途レポートは檀家満足層ほど支持しており、差別化と社会的意義が一致する。

06

販売チャネルとしてのコンサル

宗派本山経由の一括販売は存在しない。実質チャネルはコンサル併売・エンディング産業展・月刊住職・SEO。依頼者がコンサルであること自体がチャネルになる。

§5

ヒアリング前に決める論点

5件
01

単寺カスタム か 横展開SaaS か

収益性も設計も根本から変わる。ヒアリング A-3 の回答が最重要。

02

入口機能の選定

米国の教訓は「決済(献金)が導入の入口」。日本では年忌法要の自動計算+案内状が最も普遍的なペインで、次いで護持会費の未納管理。集客は檀家基盤が整った後の第2フェーズが自然。

03

データ分離設計

檀家データ(宗教活動=個人情報保護法の義務規定は適用除外)と集客アプリのユーザーデータ(収益事業=適用あり)は法的に扱いが異なる。最初からテナント/目的分離を設計に織り込む。

04

価格帯

既存相場は月4,980〜15,000円。年収300万円未満が6割の市場で高単価は難しく、コンサル込みのバンドルや決済手数料型(Tithe.ly方式)も検討余地。

05

本当に作るべきかの検証

対象寺院が檀家100件以下なら「高機能な管理システム」は過剰の可能性もある。業務量を定量化してから機能を絞る。

§6

ヒアリングシート — 全42問

A〜H の8群

次のアクションはこれを埋めること。とくに A-3 の回答が、事業の形そのものを決める。

A

依頼者(コンサルタント)自身

最重要
  1. コンサル先は何か寺? 宗派・地域・規模(檀家数)の分布は?
  2. 提供中のサービス内容と料金体系は?(SNS運用・集客・経営相談など)
  3. (a) 特定の1〜数か寺の課題解決 か (b) コンサル先に横展開する自社サービス化 か
  4. 誰が費用を負担する想定?(寺院が直接契約/コンサル料に含める/レベニューシェア)
  5. 依頼者から見て、お寺の一番の困りごとは?
  6. 既存ソフト(お寺まもる君・寺務台帳等)を紹介・検討したことは? 導入しなかった理由は?
B

対象寺院の基本情報

7–10
  1. 宗派・本山との関係(過去帳のデジタル化・クラウド化に宗派規範の制約は?)
  2. 檀家数と直近5〜10年の増減。墓じまい・離檀の発生頻度
  3. 住職の年齢・ITリテラシー。寺族・職員は何人が事務に関わるか
  4. 兼務寺院はあるか。後継者は決まっているか
C

現状の業務と管理方法

現物を見る
  1. 檀家名簿は何で管理?(紙/Excel/筆まめ/既存ソフト)→ 実物を見せてもらう
  2. 過去帳の状態(手書き冊数・旧字外字の頻度)。デジタル化への抵抗感
  3. 年忌法要の把握方法(誰がいつ何回忌かをどう調べ、どう案内している?)
  4. 連絡手段の内訳(電話/郵送/FAX/LINE/メール)。案内状は年何回・何通・作成時間は?
  5. 法要・行事のスケジュール管理と予約受付(ダブルブッキングは起きる?)
  6. 墓地・納骨堂の有無。区画台帳・図面・埋葬許可証の管理方法
  7. 一番時間を取られている事務作業は?(週何時間か)
D

お金の流れ

収益源ごと
  1. 檀家収入 — 護持会費の年額・集金方法・未納の把握と督促。入檀/離檀時の運用
  2. お布施 — 金額の目安を提示しているか。現金以外を受け取ったことは? 記録方法は?
  3. 賽銭 — 月あたりの規模感。集計・両替の手間(硬貨手数料)。キャッシュレスへの関心と抵抗
  4. 授与品 — 品目数・仕入先・在庫・売上記録。EC/郵送授与への考え(「授与と販売」の線引き)
  5. その他収入 — 駐車場・墓地管理料・永代供養・拝観料・貸し施設(課税区分が変わる)
  6. 会計 — 誰が記帳? 使用ソフトは? 税理士は? 収益事業の区分経理はしているか
  7. 修繕 — 直近実績と費用・資金源。積立の有無。今後10年の予定と概算。勧募のやり方・クラファンへの関心
E

檀家・参拝者との関係

25–30
  1. 檀家の年齢分布。次世代(子・孫世代)との接点
  2. 遠方檀家の割合。墓参できない檀家への対応(代行・オンラインの需要)
  3. 寺報・行事案内など定期的な情報発信の有無と頻度
  4. 檀家以外の参拝者はどれくらい? 何を目的に来ている?
  5. 年間行事(彼岸会・施餓鬼・坐禅会・マルシェ等)のラインナップと集客方法・参加者数
  6. SNS・HPの現状(誰が運用? コンサル範囲?)。LINE公式アカウントの有無
F

IT導入経験と意思決定

31–34
  1. これまでの導入/検討経験は? やめた理由は?
  2. クラウドに檀家情報を置くことへの抵抗感(セキュリティ・宗派規範)
  3. 意思決定プロセス(住職単独? 責任役員会・総代会の承認が必要?)
  4. 月額いくらまでなら現実的か。初期のデータ入力は誰がやる想定か(入力代行の予算)
G

法令・書類まわり

要件に直結
  1. 所轄庁への提出書類(役員名簿・財産目録・収支計算書)は誰がどう作成?
  2. 年間収入は8,000万円を超えるか(収支計算書の作成義務の分岐)
  3. 収益事業の届出・申告はあるか(駐車場等)。インボイス登録の有無
  4. 住職・職員の給与計算と源泉徴収は誰が?
H

将来構想のすり合わせ

39–42
  1. 「新しい感じが良い」の具体像(参考にしたい寺・サービス・デザイン)
  2. 参拝者向けアプリで実現したい体験(御朱印・イベント・お守りEC・寄付など)
  3. 成功の定義 — 1年後にどうなっていたら成功か(時間削減/接点増/新規参拝者数/収益増)
  4. 予算とスケジュール感。まず小さく始めるならどの機能から?
§7

現在地

完了 — 2026-08-31

市場調査

10視点の並列Web調査+追加調査4本。本レポートの内容。

次はここ

ヒアリング

依頼者・対象寺院への42問。A-3の回答で設計の前提が決まる。

未着手

要件定義・設計

入口機能の絞り込みとデータ分離設計。

未着手

実装

ヒアリング結果を受けて着手。

§8

主要出典

一次情報中心